はじめに:私たちの事務所について
こんにちは、税理士法人JTS会計です。私たちは、1970年に石川県金沢市で創業した会計事務所です。2022年に金沢市増泉へ移転し社名も新たに、長年の経験で培った豊富な知見を基盤としながら、最新のクラウド会計ソフトも積極的に活用し、お客様の多様なニーズにお応えしています。日頃の会計業務はもちろん、実績豊富な相続税申告や税務調査対応もお任せください。16名のスタッフが、皆様の経営を力強くサポートします。
「まだまだ現役で頑張るつもりだよ」「引退なんて、考えたこともないな」
日々の業務に追われる中で、会社の「終わり」や「次世代への引継ぎ」を考える経営者の方は、そう多くはないかもしれません。目の前の資金繰り、従業員の育成、新規顧客の開拓…。社長の仕事は常に「今」の連続です。
しかし、時間は確実に流れていきます。情熱を注ぎ、人生を捧げてきた大切な会社を、あなたは将来どうしたいと考えていますか?「息子に継いでほしいが、あいつにその気があるのか…」 「信頼できる番頭はいるが、会社の借金まで背負わせるのは忍びない」 「もし自分に何かあったら、この会社と従業員はどうなってしまうのだろう」
こうした漠然とした不安は、多くの経営者が心のどこかで抱えているものです。 その不安を具体的な計画に変え、会社の未来、そして経営者ご自身の豊かなセカンドライフへの道筋を描くこと。それが、今回からシリーズでお話しする**「出口戦略」**です。
出口戦略とは、決してネガティブな「店じまい」の話ではありません。会社の価値を最大化し、従業員の雇用を守り、関係者全員が幸せになれる未来を迎えるための、極めてポジティブで重要な経営戦略なのです。
日本の会社が直面する、待ったなしの現実
「うちの会社はまだ大丈夫」と思っていても、日本全体を見渡すと、事業承継はもはや待ったなしの社会的な課題となっています。こちらのグラフをご覧ください。
【グラフ】中小企業経営者の平均年齢の推移
(出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」のデータを基に作成)

このグラフが示すように、中小企業の経営者の平均年齢は右肩上がりで上昇を続け、今や64歳に迫ろうとしています。そして、これと同時に深刻化しているのが「後継者不在」の問題です。帝国データバンクの2023年の調査では、日本企業の約57%が後継者不在であると報告されています。
これは、あなたの会社も決して他人事ではない、ということを意味します。準備を先延ばしにしているうちに、経営者ご自身が高齢になり、いざという時に打てる手が限られてしまう。そんな事態は避けなければなりません。
【実例】「最高のタイミング」で決断。社長が守りたかったもの
ここで、ある経営者の優れた「出口戦略」の実例をご紹介します。石川県内で介護事業を展開する企業を経営するI社長(50代)の物語です。
I社長の経営するグループホームは、「利用者本位」の徹底で地域に知られていました。一般的な施設が安全を優先し飲酒や喫煙を禁じることが多い中、I社長は「利用者の『楽しい』が第一」という信念のもと、本人の望む生活を可能な限り実現 。ときには利用者と職員が一緒に市場へ買い物に出かけ、値切り交渉を楽しみ、その日の献立を決める 。その革新的なスタイルは「石川のグループホームのパイオニア」とまで呼ばれるほど、利用者とその家族から絶大な信頼を得ていました 。
まさに順風満帆に見えたI社長の会社。しかし、彼の視線は常に未来を見据えていました。心の内で、いくつかの課題が明確になっていたのです。
第一に、後継者不在の問題です。一人息子には本人の人生を歩んでほしく、事業承継の選択肢はありませんでした 。そこで10年以上にわたり職員の中から後継者を育てようと試みましたが、介護現場の高いスキルと、複雑な介護保険制度の知識や経営能力を兼ね備えた人材の育成は、困難を極めました 。I社長自身が、現場の誰よりも動ける「スーパープレイヤー」であったことが、かえって権限移譲を難しくしていた側面もありました 。
第二に、介護業界全体の構造的な課題です。人手不足が深刻化するにつれ、以前のような熱意ある人材の確保が難しくなり、I社長が理想とするサービスの質を維持することに限界を感じ始めていました 。
そして、I社長がM&Aを具体的に考え始めたのは、50歳という年齢を意識した頃でした。さらに決定的な転機となったのは、2023年度の決算です。代表取締役に就任して以来、経営改善に努めてきた成果が実を結び、過去最高の利益を達成 。「会社を譲渡するなら、企業価値が最も高まっている今しかない」。それは、病気や業績悪化に追い詰められての苦渋の決断ではなく、会社の価値を最大化するための、極めて戦略的な判断でした。
譲渡先の選定では、当初、条件や金額に迷いも生じました。しかし、旧知の友人から「会社や自分のことではなく、家族のことだけを考えろ」と助言され、目が覚めたと言います 。最終的に選んだのは、I社長の理念に共感してくれた若い経営者の企業でした。決め手の一つは、その企業がご子息の住む北海道にも事業所を持っていたこと 。それは、会社と従業員の未来だけでなく、自身の妻の幸せまでをも見据えた選択でした。
I社長の事例は、出口戦略が「店じまい」ではなく、関係者全員の未来を豊かにするための「積極的な経営戦略」であることを教えてくれます。健康で、気力も体力も充実し、そして何より会社の業績が絶頂にあるタイミングで行動を起こしたこと。その冷静で、愛情にあふれた決断が、長年心血を注いできた事業、従業員、そして家族の未来を守る、最良の「杖」となったのです。
なぜ「今すぐ」出口戦略を考えるべきなのか?
I社長の事例からもわかるように、出口戦略の検討を早期に始めることには、計り知れないメリットがあります。
- 時間的な余裕が、最良の選択肢を生む 後継者の育成、会社の強みを磨き上げる「企業価値向上」の取り組み、節税対策の実行。どれも数年単位の時間がかかります。準備期間が長ければ長いほど、より多くの選択肢を比較検討し、納得のいく決断ができます。
- 会社の価値を最大化できる 計画的に準備を進めることで、社長に依存した経営から脱却し、誰が経営しても回る「仕組み」を作ることができます。事業の強みを伸ばし、弱みを克服することで会社の評価は高まり、M&Aであればより良い条件で売却でき、事業承継であれば後継者の負担を大きく減らすことができます。
- 経営者自身の人生設計が描ける 会社の出口が見えることで、経営者ご自身の引退後の生活を具体的にイメージできます。いつ、誰に、どのように会社を引き継ぎ、自分はいくらの資産を手にし、その後どのような人生を送りたいのか。会社の未来と自身の未来をセットで考えることで、経営へのモチベーションも変わってくるはずです。
出口戦略の検討は、健康で、経営に体力も気力もある「今」だからこそ、冷静かつ戦略的に進めることができるのです。
本日のことわざ
転ばぬ先の杖。
あなたのその一歩が、大切な会社と従業員、そしてあなた自身の輝かしい未来を守る、何よりの杖となるのです。
まとめ:未来への第一歩
ここまで、出口戦略の重要性についてお話ししてきました。 「何から手をつければいいのか分からない」 そう思われるのが当然です。最初の一歩は、自社の現状を客観的に知ること。そして、専門家の声に耳を傾けてみることです。
弊所では、経営者の皆様が人生を懸けて築いてこられた大切な会社の未来づくりを、全力でサポートいたします。まずは会社の健康診断とも言える「現状の見える化」から始め、企業価値の評価、親族承継・従業員承継・M&Aといった多様な選択肢の検討、そして円滑な引継ぎに向けた事業承継計画の策定や節税対策まで。専門家として皆様に寄り添い、共に最適な航海図を描くお手伝いをさせていただきます。


