はじめに:私たちの事務所について
こんにちは、税理士法人JTS会計です。私たちは、1970年に石川県金沢市で創業した会計事務所です。2022年に金沢市増泉へ移転し社名も新たに、長年の経験で培った豊富な知見を基盤としながら、最新のクラウド会計ソフトも積極的に活用し、お客様の多様なニーズにお応えしています。日頃の会計業務はもちろん、実績豊富な相続税申告や税務調査対応もお任せください。16名のスタッフが、皆様の経営を力強くサポートします。
なぜ「現状把握」が最初の一歩なのか
第1話では、なぜ今から出口戦略を考えるべきか、その重要性についてお話ししました。漠然とした不安を解消し、会社の未来を主体的に創り上げるためには、早期の準備が不可欠です。
そして、その準備のまさに「第一歩」となるのが、今回お話しする「自社の現状把握」です。
事業承継における現状把握は、人間ドックに似ています。健康診断を受けずに、いきなり治療方針を決めたり、手術の予定を立てたりするお医者さんはいません。まずは体の隅々までを客観的な数値やデータで把握し、どこに強みがあり、どこに課題が潜んでいるのかを正確に知るからこそ、最適な治療法を選択できるのです。
会社も同じです。
「うちは儲かっているから大丈夫」「長年の勘で会社のことは全部わかっている」
そう思っていても、いざ事業承継を具体的に進めようとしたとき、
「後継者が継ぎたいと思えるほど、会社の魅力や将来性を具体的に説明できない」
「自社株の評価額が想定よりはるかに高く、後継者が贈与税や相続税を払えない」
「経営者個人と会社の資産が混在しており、引き継ぎたくても引き継げない」
といった問題が次々と噴出するケースは後を絶ちません。
まずは、思い込みや感覚を一旦脇に置き、客観的な視点で自社の姿を正確に、そして詳細に把握すること。それが、最適な事業承継プランという航海図を描くための、全ての始まりとなるのです。
何を把握すべきか?事業承継の「3つの見える化」
では、具体的に何を把握すればよいのでしょうか。私たちは、事業承継における現状把握を「ヒト」「モノ」「カネ」という3つの側面から「見える化」することが重要だと考えています。
1. 「ヒト」の見える化:誰が、会社を支えているか?
会社は「人」で成り立っています。まずは、経営の根幹をなす「人」に関する情報を整理しましょう。
- 経営者自身: ご自身の年齢、健康状態、いつ頃引退したいか、引退後の生活設計など。
- 後継者候補: 親族や従業員に後継者候補はいるか?その人物の意欲、能力、経験は?
- 従業員: 会社の事業継続に不可欠な「キーパーソン」は誰か?その人物の年齢や処遇は?
- 株主: 株主は誰で、何%ずつ保有しているか?(株主構成の把握)
特に見落としがちなのが「株主構成」です。創業時に親族や知人に出資してもらったまま、名義が分散しているケースはありませんか?いざ事業承継というときに、株式が分散していると、意思決定がスムーズに進まない大きな要因になり得ます。
2. 「モノ」の見える化:会社の価値ある資産は何か?
次に、会社が保有する有形・無形の資産を整理します。
- 事業用資産: 本社や工場の土地・建物、機械設備、在庫など。帳簿上の価格だけでなく、「今売ったらいくらになるか(時価)」も把握することが重要です。
- 知的財産: 特許権、商標権、独自の技術やノウハウ、長年培ってきたブランドイメージ、顧客リストなど。これらは貸借対照表には載ってこない「見えざる資産」ですが、会社の本当の価値を構成する重要な要素です。
- 許認可・契約: 事業を行う上で必要な許認可や、重要な取引先との契約内容など。代表者の交代によって効力が失われないか、確認が必要です。
3. 「カネ」の見える化:会社の財政状態と本当の収益力は?
最後に、会社の経済的な実態を正確に把握します。税理士の腕の見せ所でもあります。
- 財務状況の分析: 貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)といった決算書を分析し、会社の収益力、安全性、成長性を客観的に評価します。
- 自社株の評価: 事業承継において最も重要な論点の一つです。非上場会社の株式は市場価格がないため、税法上のルールに基づいて評価額を算定します。この評価額が、後継者の税負担に直結します。
- 借入金と個人保証: 会社が抱える借入金の総額と、経営者個人が連帯保証している「個人保証」の状況を正確に把握します。これは後継者にとって大きな負担となるため、整理・解消に向けた計画が必要です。
【実例】コロナ禍の赤字を乗り越え、過去最高益へ。父と子の二人三脚が生んだ事業承継の成功譚
「息子に会社を継がせたはいいが、コロナ禍という最悪のタイミングで、本当に苦労をかけている…」
今回ご紹介するのは、金沢市内で長年、業務用什器卸業を営むK社(仮名)の事例です。数年前に30代の息子さんに社長の座を譲ったものの、その直後にコロナ禍が直撃。飲食業界を主要な取引先とする同社は、深刻な影響を受けました。会長となった先代社長は「自分の代では経験しなかった赤字経営に、息子は責任を感じ追い詰められているのではないか」と、心配な日々を過ごされていました。
そこで私たちは、まず客観的な事実を「見える化」するため、過去の財務データを丁寧に紐解くことから始めました。

グラフから見えてきた会社の「本当の姿」
グラフが示す通り、コロナ禍の2年間(令和3年1月期、令和4年1月期)は、売上が落ち込み、営業利益は赤字となりました 。これは、会長・社長が肌で感じていた通りの厳しい現実です。
しかし、私たちが注目したのはその後の驚異的な回復力でした。
- V字回復を遂げた「稼ぐ力」: 苦しい時期に、会長のアドバイスを元に「今は耐える時だ」と、経費の見直しや既存顧客との関係維持に努めた現社長。その実直な経営が実を結び、コロナが明けると同時に営業利益は黒字に転換 。翌期には2,000万円台 、その翌期も2,000万円台 と、コロナ禍以前を遥かに上回る過去最高水準の利益を叩き出しました。
- 急増する純資産: 赤字期には減少した純資産(会社の財産)も、利益の回復に伴い急増 。会社の安定性・体力が著しく向上していることが分かりました。
この客観的なデータは、父と子の意識を大きく変えました。
心配そうに見守っていた会長は、「赤字という目先の数字に囚われていたが、息子は苦しい中で、会社の収益構造をより強く変革してくれていたんだ」と、現社長の手腕を再認識し、安堵の表情を浮かべました。
一方、現社長も「赤字を出してしまったことに負い目を感じていたが、父が築いてくれた基盤と助言があったからこそ、思い切った改革ができた。こうして数字で見ると、自分のやってきたことが会社の成長に繋がっていると自信が持てた」と、今後の経営への意欲をより一層強くしました。
事業承継は、単なるバトンタッチではありません。このように会社の現状を正しく「見える化」し、先代と後継者が共通の認識を持つことで、互いの不安は自信と信頼に変わり、会社を更なる成長へと導く羅針盤となるのです。
現状を把握したら、理想の未来を描こう
さて、人間ドックで体の状態が分かったら、次は何をするでしょうか?
「これからも健康を維持するために、食生活を見直そう」
「見つかった課題を解決するために、週2回は運動しよう」
といった、「どうなりたいか」という目標を立てるはずです。
事業承継も全く同じです。
現状把握という客観的なデータが出揃ったら、次は経営者ご自身の「想い」を乗せて、理想の未来を描くステップに移ります。
- 誰に継がせたいか?(親族、従業員、第三者?)
- いつまでに継がせたいか?(3年後、5年後、10年後?)
- どのような形で会社を残したいか?(今の事業のまま?新規事業も?)
- ご自身の引退後の生活は?(趣味に生きる?後継者の相談役?)
これらに正解はありません。経営者お一人お一人の価値観、ご家族との関係、会社の状況によって、描くべき未来は千差万別です。
大切なのは、この「理想の未来」をできるだけ具体的に、そしてワクワクするような形で描いてみることです。その理想像こそが、これから始まる長く複雑な事業承継のプロセスを乗り越えるための、強力なモチベーションとなるでしょう。
本日のことわざ
先づ隗より始めよ
これからはじまる大きな改革も、まずは身近な現状把握からはじめてみませんか?
まとめ
事業承継の第一歩は、自社の「ヒト・モノ・カネ」を正確に把握し、客観的な事実と向き合うことから始まります。そして、そのデータに基づいて、経営者ご自身が心から望む会社の未来と、ご自身のハッピーリタイアメントを具体的に描くこと。
この2つが揃って初めて、あなたは事業承継という航海の、確かな羅針盤を手に入れることができるのです。
次回、第3話では、この羅針盤を手に、具体的にどのような航路(税務対策)を進むべきかについて詳しく解説していきます。
弊所では、経営者の皆様が人生を懸けて築いてこられた大切な会社の未来づくりを、全力でサポートいたします。まずは会社の健康診断とも言える「現状の見える化」から始め、企業価値の評価、親族承継・従業員承継・M&Aといった多様な選択肢の検討、そして円滑な引継ぎに向けた事業承継計画の策定や節税対策まで。専門家として皆様に寄り添い、共に最適な航海図を描くお手伝いをさせていただきます。


