従業員承継の可能性:MBO(マネジメント・バイアウト)の活用
出口戦略シリーズ第5話

従業員承継の可能性:MBO(マネジメント・バイアウト)の活用

こんにちは、税理士法人JTS会計です。私たちは、1970年に石川県金沢市で創業した会計事務所です。2022年に金沢市増泉へ移転し社名も新たに、長年の経験で培った豊富な知見を基盤としながら、最新のクラウド会計ソフトも積極的に活用し、お客様の多様なニーズにお応えしています。日頃の会計業務はもちろん、実績豊富な相続税申告や税務調査対応もお任せください。16名のスタッフが、皆様の経営を力強くサポートします。

「子どもに会社を継ぐ気はないと言われた…」 「自分の気力や体力が続くうちに、会社の将来を何とかしたい…」

会社の未来を真剣に考える経営者の皆様にとって、事業の引継ぎ、すなわち「事業承継」は、いつかは向き合わなければならない大切な課題です。

かつては「会社は子どもに継がせるもの」というのが当たり前でした。しかし、今や親族の中に後継者が見つからないことは、決して珍しいことではありません。 「では、会社を畳むしかないのか?」「全く知らない第三者に会社を売るのも不安だ…」 そんなお悩みを抱える経営者の皆様に、ぜひ知っていただきたい選択肢があります。それが、長年、苦楽を共にしてきた役員や従業員に、会社の未来を託す「従業員承継」です。

今回は、その代表的な方法である「MBO(マネジメント・バイアウト)」について、当事務所の支援事例も交えながら、わかりやすく解説していきます。

1.「従業員への会社引継ぎ(MBO)」って、そもそも何?

MBOと聞くと、難しく感じるかもしれません。しかし、仕組みはとてもシンプルです。 MBOとは、長年会社を支えてきた役員や従業員(経営陣)が、今の社長から自社の株式を買い取って、新しい経営者になる方法のことです。

親族に後継者がいない場合、これまでは会社を外部の企業に売却する「M&A」が主な選択肢でした。MBOはそれとは異なり、会社のことを一番よく理解している「内部の人材」に経営のバトンを渡す、いわば「社内での事業承継」です。これにより、会社の歴史や文化を大切にしながら、事業を続けていくことができます。

2.なぜ、従業員に引き継ぐのが良いの?

大切な会社を従業員に引き継ぐことには、今の社長、新しい社長となる従業員、そして会社に残る他の従業員や取引先にとっても、多くのメリットがあります。

  • 今の社長(売主)にとっての安心感 何よりも、気心の知れた従業員に会社を任せられるという安心感があります。また、株式を売却することで、これまで会社を育ててきたことへの対価(いわば引退資金)をしっかりと受け取ることができます。
  • 新しい社長(買主)にとってのやりがい 新しい社長となる従業員は、会社のことを知り尽くしているため、スムーズに経営を引き継ぐことができます。何より、「自分の会社」として、責任とやりがいを持って、自らの思い描くビジョンを実現していくことができます。
  • 他の従業員や取引先にとっての信頼感 社長は代わっても、経営陣の顔ぶれは大きく変わりません。そのため、他の従業員は「雇用は守られるだろうか」「働き方が大きく変わるのでは」といった不安を感じにくく、取引先も安心して関係を続けることができます。

まさに、関係者みんなにとって「三方よし」が実現できる可能性を秘めた方法なのです。

事業承継の相手方の推移

以下は、中小企業庁のデータに基づいた事業承継の相手方の割合の推移です。親族への承継が減少し、従業員やM&Aなどが増えている傾向が読み取れます。

出典:中小企業庁「2024年版 中小企業白書」第2部第4章「事業承継を通じた企業の成長・発展」のデータを基に作成 

【モデルケース】後継者不在に悩む製造業A社の挑戦

ここで、従業員承継の具体的なイメージを掴んでいただくため、ある製造業のモデルケースをご紹介します。

会社の状況:

金沢市内で精密部品の製造を手掛けるA社。高い技術力を誇り、地域でも評判の優良企業でした。しかし、B社長は70歳を迎え、体力の限界を感じていました。お子様は県外で家庭を築いており、会社を継ぐ意思はありません。「この技術を絶やしたくないが、会社を畳むしかないのか…」と、長年付き合いのある税理士に相談を持ち掛けました。

専門家からの提案:

相談を受けた税理士は、B社長の話をじっくりと伺い、従業員の中に信頼できる方がいないか尋ねました。そこで名前が挙がったのが、創業当初からB社長の右腕として会社を支えてきた、C専務(55歳)です。

税理士は、このC専務に会社を引き継ぐ「従業員承継(MBO)」を提案しました。

直面した壁と、その解決策:

一番の壁は、やはり「お金の問題」でした。会社の株式をすべて買い取るには、C専務個人の貯蓄だけでは到底足りません。

そこで税理士は、まず会社の価値を正しく計算し、C専務がいくら資金を準備する必要があるかを明確にしました。その上で、C専務の熱意と会社の将来性を具体的に示す事業計画書の作成をサポート。地元の金融機関や日本政策金融公庫に同行し、会社の将来性を担保にお金を借りる交渉を粘り強く行いました。

承継の結果:

専門家のサポートもあり、金融機関からの融資が無事に決定。C専務はA社の株式をB社長から正式に買い取り、新社長に就任しました。

心配された従業員の離職は一人もなく、むしろ「Cさんなら安心だ」と、社内の士気は一層高まりました。B社長は会長という立場で会社を見守りつつ、念願だった悠々自適な引退生活を満喫されています。A社は今、C新社長のもとで、新たな成長の道を歩んでいます。

3.一番の壁「お金の問題」を乗り越えるには

事例にもあったように、従業員承継で誰もが直面するのが、株式を買い取るための「資金調達」です。しかし、A社の例のように、解決策は必ずあります。

  • 役員退職金の活用

見落とされがちですが、非常に有効な方法の一つが「役員退職金」の活用です。これは、現経営者の引退に合わせて、会社から功労の対価である役員退職金を支払う、というごく自然な制度を利用します。では、なぜこれが資金調達の助けになるのでしょうか。

仕組みはこうです。まず、会社が社長に退職金を支払うと、会社の現金(財産)がその分だけ減少します。会社の財産が減るということは、会社の価値そのものである**「株価」が引き下がることにつながります。

後継者は、この引き下がった株価で株式を買い取ることができるため、当初の想定よりも少ない資金で株式を取得できるのです。

この方法は、後継者の資金調達の負担を軽くするだけでなく、退職金を受け取る現経営者にとっても、株式譲渡の所得とは別の退職所得として受け取ることで、税金の負担が軽くなるケースが多く、双方にとってメリットのある円満な承継を実現しやすくなります。ただし、退職金の金額設定には税務上のルールがあるため、専門家による綿密なシミュレーションが不可欠です

  • 会社の将来性や価値を「見える化」する 

金融機関が融資を判断する上で最も重視するのは、「この会社に将来性があるか」という点です。そのためには、専門家による客観的な「企業価値評価(会社の値段の計算)」や、説得力のある「事業計画書」が不可欠です。

  • 公的な支援制度を上手に活用する

国や県も、事業承継を積極的に後押ししています。日本政策金融公庫などが用意している事業承継のための特別な融資制度を使えば、有利な条件で資金を借りられる可能性があります。

  • 専門家と一緒に金融機関と交渉する 

資金調達には、専門的な知識と交渉の経験が必要です。私たち税理士が間に入ることで、会社の強みを的確に伝え、円滑に交渉を進めることができます。

決して後継者一人が抱え込む問題ではありません。現経営者と後継者、そして私たち専門家がチームとなって知恵を絞れば、乗り越えられない壁ではないのです。

本日のことわざ

灯台下暗し

 遠くにばかり目を向けて探し物をしているけれど、実はすぐ足元にあった、という意味のことわざです。皆様の会社にとって最も輝かしい未来を託せる後継者は、もしかしたら、今まさに隣で働いている、信頼の厚いあの役員・従業員なのかもしれません。

従業員への承継は、会社の歴史と未来を繋ぐ、非常に価値のある選択肢です。

弊所では、経営者の皆様が人生を懸けて築いてこられた大切な会社の未来づくりを、全力でサポートいたします。まずは会社の健康診断とも言える「現状の見える化」から始め、企業価値の評価、親族承継・従業員承継・M&Aといった多様な選択肢の検討、そして円滑な引継ぎに向けた事業承継計画の策定や節税対策まで。専門家として皆様に寄り添い、共に最適な航海図を描くお手伝いをさせていただきます。

・この記事を書いたスタッフ

鈴木 伸英

鈴木 伸英

日々の会計業務だけでなく、経営者の想い、会社で働く方々の生活、取引先との関係性などを含めて、“その会社らしい継続・相続” を一緒に考えることを大切にしています。一児のパパで休日は愛犬のポメラニアンと遊んでリフレッシュしています。

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