M&Aを検討する経営者へ:売却のメリットとリスク、準備の進め方
出口戦略シリーズ第6話

 M&Aを検討する経営者へ:売却のメリットとリスク、準備の進め方

はじめに:私たちの事務所について

こんにちは、税理士法人JTS会計です。私たちは、1970年に石川県金沢市で創業した会計事務所です。2022年に金沢市増泉へ移転し社名も新たに、長年の経験で培った豊富な知見を基盤としながら、最新のクラウド会計ソフトも積極的に活用し、お客様の多様なニーズにお応えしています。日頃の会計業務はもちろん、実績豊富な相続税申告や税務調査対応もお任せください。16名のスタッフが、皆様の経営を力強くサポートします。

なぜ今、MAが選択肢になるのか

経営者の皆様が心血を注いで育ててこられた会社。その未来を考える「出口戦略」の中でも、近年特に注目を集めているのがM&A(Mergers and Acquisitions:企業の合併・買収)です。

かつてM&Aと聞くと、「身売り」や「乗っ取り」といったネガティブなイメージや、大企業だけが関係する話だと思われる方もいらっしゃったかもしれません。しかし、時代は大きく変わりました。現在、日本の中小企業にとってM&Aは、後継者問題を解決し、会社をさらに発展させるための、極めて有効でポジティブな経営戦略の一つとなっています。

特に、経営者の平均年齢が上昇し続ける中、「親族や社内に適当な後継者が見つからない」というお悩みは、多くの経営者が直面する深刻な課題です。大切な会社を、技術や従業員、取引先との関係ごと未来へ繋いでいく。そのための有力な選択肢がM&Aなのです。

今回は、会社の売却を検討する経営者の皆様へ、M&Aの具体的なメリットとリスク、そして成功に向けた準備の進め方を分かりやすく解説していきます。

会社の未来を拓くMA5つのメリット

M&Aによる会社売却は、単に会社を手放すということではありません。経営者、従業員、そして会社自身にとって、多くのメリットをもたらす可能性があります。

  1. 創業者利益の確保とハッピーリタイア 経営者人生の集大成として、株式譲渡によってまとまった資金(創業者利益)を得ることができます。これにより、悠々自適なリタイア生活を送ったり、新たな事業への挑戦を始めたりと、第二の人生を豊かに設計することが可能になります。個人で負っていた借入金の個人保証や担保も解消されるため、精神的な負担からも解放されます。
  2. 従業員の雇用の維持 廃業を選択した場合、従業員は職を失うことになります。しかし、M&Aであれば、新たな株主(買手企業)のもとで雇用が維持されるケースがほとんどです。従業員の生活を守り、彼らが培ってきた技術や経験を活かす場を存続させられることは、経営者にとって大きな安心材料となるでしょう。
  3. 事業の成長・発展(シナジー効果) 自社だけでは難しかった大きな投資や販路拡大も、資金力やネットワークを持つ買手企業と一体となることで実現可能になります。相手企業の技術やブランド力を活用し、自社の強みと掛け合わせることで、これまで以上の事業成長(シナジー効果)が期待できます。これは、会社の未来の可能性を大きく広げることに繋がります。
  4. 深刻な後継者問題の解決 M&Aは、後継者不在の問題を根本的に解決する最も直接的な手法です。親族や社内に後継者候補がいない場合でも、会社と従業員の未来を、意欲と能力のある第三者に託すことができます。
  5. 取引先との関係維持 廃業は、長年付き合いのあった仕入先や販売先といった取引先にも大きな影響を与えます。M&Aによって事業が継続されれば、こうした取引関係も維持され、地域経済への影響を最小限に食い止めることができます。

モデルケースで見るMA:後継者不在の製造業A社のケース

ここで、M&Aによってハッピーリタイアを実現したモデルケースを見てみましょう。

【背景】 石川県で食品製造業を営むA社。社長は68歳、後継者はおらず、自身の健康にも不安を感じ始めていました。会社には5,000万円の純資産がありましたが、このまま廃業すれば従業員は路頭に迷い、長年の取引先にも迷惑がかかります。そこで、M&Aを決断し、事業拡大を目指す同業の中堅企業に会社を譲渡することになりました。

MAの結果】 企業価値は「営業利益の5年分+純資産」で評価され、最終的に1億2,500万円で売却が成立しました。

A社の社長は、売却によって得た約1億円の資金を元に、長年の夢だった世界一周旅行の計画を立てています。何より、従業員の雇用が守られ、自社ブランドが相手企業の販路に乗って全国展開されることになり、「自分の子ども同然の会社がさらに成長していくのが嬉しい」と語っています。これは、M&Aがもたらす理想的な結果の一つです。

以下は、中小企業庁によるM&A実施後の満足度のグラフです。M&Aを実施した経営者のうち、「期待以上だった」または「期待どおりだった」と回答した人の割合は、合計で68.3%にものぼります。つまり、約7割の経営者がM&Aの結果に満足しているということです。これは、M&Aが単なる事業の売却ではなく、経営者自身にとっても、会社にとっても前向きな結果をもたらす有効な選択肢であることを示しています。


出典:中小企業庁「平成30年版 中小企業白書」

知っておくべきMA3つのリスク

多くのメリットがある一方、M&Aには慎重に進めるべきリスクも存在します。

  1. 希望の条件に合う相手が見つからない可能性 当然ながら、自社の事業内容や将来性に魅力を感じてくれる買手が見つからなければ、M&Aは成立しません。また、相手が見つかっても、売却価格や従業員の待遇など、希望する条件が折り合わないケースもあります。
  2. 交渉過程での情報漏洩リスク M&Aの検討や交渉が進んでいることが外部に漏れると、従業員が動揺して退職してしまったり、取引先が不安に感じて取引を縮小したりするリスクがあります。秘密保持契約を締結するなど、徹底した情報管理が不可欠です。
  3. MA後の統合プロセス(PMI)の失敗 契約が完了すれば終わりではありません。異なる企業文化を持つ会社同士が一つになるプロセス(PMI:Post Merger Integration)がうまくいかないと、主要な従業員が退職したり、期待したシナジー効果が得られなかったりする恐れがあります。売却する側としても、従業員や会社のために、PMIが円滑に進むよう協力する姿勢が求められます。

成功へのロードマップ:MA準備の7ステップ

M&Aを成功させるためには、計画的で周到な準備が何よりも重要です。思いつきで進めるのではなく、以下のステップに沿って進めるのが一般的です。

  1. MAの検討・専門家への相談 まずは「なぜM&Aをしたいのか」という目的を明確にします。その上で、秘密保持を徹底できる信頼のおける専門家(税理士やM&A仲介会社など)に相談し、客観的なアドバイスを求めましょう。
  2. 自社の現状把握と企業価値評価 自社の強み・弱み、財務状況などを客観的に分析します。その上で、自社がいくらで売れそうか、概算の企業価値を評価(バリュエーション)してもらいます。これが今後の交渉の土台となります。
  3. 提案資料(企業概要書)の作成 買手候補企業に自社の魅力を伝えるための資料(企業概要書:インフォメーション・メモランダム)を作成します。事業内容、財務状況、組織体制、将来性などを分かりやすくまとめます。
  4. 買手候補企業のマッチング 専門家のネットワークを通じて、自社の条件に合い、かつ最も良いシナジーが期待できる買手候補を探します。この段階では、社名は伏せた状態(ノンネーム)で打診を進めます。
  5. トップ面談・基本合意 関心を示した候補先と経営者同士の面談を行います。お互いのビジョンや経営方針を確認し、条件交渉を経て、独占交渉権などを定めた「基本合意書」を締結します。
  6. デューデリジェンス(買収監査) 買手企業が、弁護士や公認会計士などの専門家を通じて、売手企業の財務、法務、税務、事業内容などを詳細に調査します。ここで大きな問題(簿外債務など)が見つかると、取引価格が引き下げられたり、契約が破談になったりする可能性もあります。
  7. 最終契約・クロージング デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件を交渉し、「最終譲渡契約書」を締結します。株式の引き渡しと対価の決済が完了すれば、M&Aは成立(クロージング)です。

おわりに

会社の未来を左右するM&Aは、非常に専門的な知識と交渉力が求められる、まさに「一大プロジェクト」です。経営者お一人で全ての判断を下し、手続きを進めるのは現実的ではありません。

「餅は餅屋」

このことわざが示す通り、複雑で専門的なM&Aにおいては、信頼できる専門家をパートナーに選ぶことが成功の絶対条件です。いつか訪れる「その日」のために、まずは専門家と一緒に会社の現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。

弊所では、経営者の皆様が人生を懸けて築いてこられた大切な会社の未来づくりを、全力でサポートいたします。まずは会社の健康診断とも言える「現状の見える化」から始め、企業価値の評価、親族承継・従業員承継・M&Aといった多様な選択肢の検討、そして円滑な引継ぎに向けた事業承継計画の策定や節税対策まで。専門家として皆様に寄り添い、共に最適な航海図を描くお手伝いをさせていただきます。 お問い合わせは、お電話にてお気軽にご連絡ください。 

・この記事を書いたスタッフ

鈴木 伸英

鈴木 伸英

日々の会計業務だけでなく、経営者の想い、会社で働く方々の生活、取引先との関係性などを含めて、“その会社らしい継続・相続” を一緒に考えることを大切にしています。一児のパパで休日は愛犬のポメラニアンと遊んでリフレッシュしています。

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